任意整理と特定調停との違い
特定調停も任意整理も借金を整理するという点では共通しています。
しかし、特定調停は裁判所が関与する手続き、任意整理は裁判所が関与しない私的な交渉の手続きという点で大きく異なります。
また、この裁判所の関与の有無により、様々な違いが出てまいります。
以下で詳しく解説します。
特定調停とは~任意整理との共通点
まず、調停とは、裁判所(及び裁判所から選任された調停委員)が債務者(借金の返済義務を負う人)と債権者(借金の返済を請求できる権利を有する人)との間に入ってお互いの主張・意見を聴き、調整した上で、合意(話し合いによる合意)を促進するための手続です。
この調停のうち民事事件を取り扱うものを民事調停といいますが、さらに民事調停の中でも借金問題に特化した調停が特定調停です。
特定調停については「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(特定調停法)という法律で規定されています。
特定調停を利用することによる最終目標は、任意整理と同様、引き直し計算をして利息制限法所定の利率で借金額を再計算し、利息・遅延損害金をカットし、さらには最終的に確定した借金額の返済を長期分割とすることによって債務者の負担を軽くすることです。
以上をまとめると、特定調停とは、裁判所(及び裁判所から選任された調停委員)が債務者と債権者との間に入り、利息のカットや借金の返済方法等に関して合意(話し合いによって合意)するための裁判手続、ということができます。
特定調停と任意整理の違い
以上のように、特定調停と任意整理は債権者との話し合いによって債務者の負担を軽くするための手続という点では共通していますが、以下の点で違いがあります。
裁判所の関与の有無
前述のとおり、特定調停は裁判所が話し合いに関与します。
これに対して任意整理は裁判所が話し合いに関与しません。任意整理はあくまで債務者と債権者との私的な交渉にすぎません。
そのため特定調停を利用するには申立書を作成し、必要な書類とともに裁判所に提出しなければなりません。この作業がなかなか大変です。
また、特定調停の申立てをした後は、裁判所に指定された期日に出廷して返済計画案を作成する必要がありますし、そのための事前準備(必要書類の整理等)も必要です。
これに対して任意整理では、裁判所に対する申立てや裁判所への出廷等が必要ありません。
債権者の取立停止時期
特定調停の場合、裁判所に対して特定調停を申し立てた後、裁判所から各債権者に申立てがあった旨の通知がなされ取立が停止します(取立が法律上禁止されます)。
しかし、前述のように申立て作業は大変で時間がかかりますし、申し立てた後、裁判所はすぐに通知を行ってくれるわけではありません。
これに対して任意整理を弁護士等の専門家に依頼した場合、弁護士等は依頼を受けた段階でただちに債権者に対して受任通知を行います。これにより債権者からの取立は止まります。
以上より、(弁護士に依頼した場合の)任意整理の方が特定調停の場合よりも債権者の取立が止まる時期がはやくなるといえます。
強制執行(差押え)の停止の有無
特定調停では、特定調停の申立てとは別に強制執行停止の申立てを行えば強制執行が停止されます。
たとえば、申立て前に給与債権等が差押えられていた場合はその差押えが停止され、全額の給与を債務者のものとすることができるということです。
そして、特定調停で債権者と合意に至った場合は停止されていた強制執行は取り下げられるか、取り消されることとなります。
これに対して任意整理は債権者との私的な話し合いにすぎませんから強制執行を停止するまでの効力はありません。
もっとも、任意整理の場合も、債権者から判決などの債務名義を取られる前に合意できれば強制執行されることはありません。
債務名義の効力としての有無
特定調停で債権者と合意に至った場合、裁判所は合意内容をまとめた調停調書を作成します。
調停調書は裁判所が作成したものだけあって、債務名義の効力を有します。
すなわち、仮に債務者が将来合意したとおりに返済しなければ、債権者から調停調書を債務名義として強制執行(差押え)をかけられる可能性があるのです。
これに対して任意整理でも債権者との合意に至った場合は合意内容をまとめた和解契約書を作成しますが、これはあくまで私的な文書にすぎませんから債務名義の効力までは有しません。
経過利息のカットの有無
経過利息とは、裁判所から債権者に対して債務者が特定調停の申立てをした旨、あるいは弁護士等が債権者に対して任意整理を受任した旨を通知してから合意に至るまでに発生する利息(あるいは遅延損害金を含む)のことをいいます。
特定調停ではこの経過利息がカットされないことがあります。そのためその分だけ将来の負担が重たくなるということになります。
これに対して任意整理では、経過利息はもちろん将来利息(合意から完済までに発生する利息)もカットするよう交渉していくのが基本となります。
過払い金が発生した場合の対応の有無
特定調停では引き直し計算をして過払い金が発生していることが判明したとしても、手続の中で過払い金の返還を請求することはできません。
過払い金の返還を請求するには特定調停の手続とは別に債権者との交渉なり訴訟を提起する必要があります。
これに対して任意整理では利息カット、分割払いに関する交渉と並行して交渉、あるいは訴訟によって過払い金の返還を請求していくことができます。
まとめ
特定調停は裁判所が関与する手続きであるがゆえに、任意整理と異なり、強制執行が停止される、一方で、取立停止時期が遅くなる、調停調書が債務名義としての効力をもつ、経過利息をカットされない、手続きの中で過払い金を請求できないという違いも出てきます。