裁判所が借金を減額してくれる個人再生のメリット・デメリットとは?
個人再生は借金を大幅に減額できる可能性があるという点が最大のメリットです。
また、自宅を処分されたくないという場合、住宅ローンは従来のまま返済していく一方で他の借金を減額してトータルの負担額を減らす住宅ローン特則を使えることも大きなメリットでしょう。
他方で、利用にあたっての要件が厳格などのデメリットもあります。以下で、個人再生のメリット、デメリットをしっかり確認しましょう。
個人再生とは
個人再生とは、支払不能に陥るおそれのある債務者(借金の返済義務を負う人)が、民事再生法の手続に従って、裁判所から強制的に借金を減額してもらい、残った借金を長期の分割返済とすることによって生活再建を図るものです。
個人再生は債務整理(自己破産、個人再生、任意整理)の一つです。
個人再生のメリット
個人再生のメリットは以下のとおりです。
借金の大幅な減額、長期の分割返済が可能
個人再生を利用すると借金を大幅に減額させることが可能です。個人再生で適用される民事再生法という法律では以下のとおり、借金の総額ごとに「最低弁済額(この額だけは返済してくださいという額)」が規定されています。
借金総額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 借金総額(つまり、減額なし) |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円超1500万円以下 | 借金総額の5分の1 |
1500万円超3000万円以下 | 300万円 |
3000万円超5000万円未満 | 借金総額の10分の1 |
上の表からすれば、たとえば、借金が1000万円だった場合、200万円まで減額できる可能性があるということになります。これは大変大きなメリットです。
また、残った200万円についても3年(または5年)という長期分割で返済できる可能性があります。
自宅の土地、建物を処分せずに済む
自宅はまさに生活の基盤ですから、自宅を処分され転居を余儀なくされると仕事、学校など日常生活に様々な影響を与えます。
そこで、個人再生では「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という制度が用意されています。
これは、住宅ローンについては従来のまま返済していく一方で、住宅ローン以外の借金について減額、長期分割することにより自宅を処分されずに済むというものです。
他方で、自己破産では自宅を処分しなければなりません。また、任意整理するにしても、住宅ローンの減額、分割、住宅ローン以外の借金の大幅な減額も難しいのが現状です。
個人再生はこうした自己破産、任意整理のデメリットを補ってくれるといえるでしょう。
債権者の意向に左右されにくい
個人再生は、手続後も借金を返済していかなければならない点は任意整理と同じです。しかし、任意整理はあくまで債権者との交渉によって月々の返済額、分割回数などを決めていくものです。
したがって、債権者が条件に納得しない限り合意に至ることはありません。他方で、個人再生は債権者その交渉ではなく裁判手続を利用して行います。
そして、裁判所の再生計画の認可がおりれば、法的な強制力が生じ、債権者はそれに従うしかありません。
つまり、個人再生は債権者の意向に左右されにくいといえます(ただし、小規模個人再生という手続の場合は、債権者からの一定の同意が必要となります)。
債権者から督促・取立が止まる、強制執行を停止、取り消すことができる
個人再生手続を弁護士に依頼すると、弁護士は貸金業者や債権回収業(以下、貸金業者等)に受任通知をします。この受任通知を行うと、貸金業者等は債務者に対して督促・取立を行うことができなくなります。
また、すでに何らかの財産を差し押さえられている場合、個人再生の手続が開始されると強制執行(財産を差し押さえて債権者に対する借金返済に充てること)されるおそれがなくなります。
自己破産のような制限がないこと
自己破産では財産を処分しなければならない、資格を必要とする職に就けない、手続中は移動が制限される、郵便物が破産管財人に送られるなどの制限があります。
他方、個人再生ではこうした制限がありません。
個人再生のデメリット
個人再生のデメリットは以下のとおりです。
利用の要件が厳しい
自己破産や任意整理に比べ利用の要件が厳しく、誰でも利用できるというわけではありません。たとえば、個人再生の場合は、
- 支払不能となってしまうおそれがある(破産の一歩手前の状態、あるいは現に破産状態である)こと
- 債務額が5000万円以下であること
- 継続したまたは反復した収入を得る見込みがあること
が必要です。また、個人再生には小規模個人再生と給付所得再生があり、それぞれ独自の要件をクリアしなければ利用することができません。
手続が複雑である上、自分で進める必要がある
個人再生は要件が厳しいだけでなく、要件をクリアした後の手続も複雑です。
また、自己破産では破産者の財産の調査、管理、処分(配当)などを行う破産管財人が選任されますから、手続を破産管財人に任せることができますが、個人再生では破産管財人のような人が選任されることはありません。
したがって、複雑な手続をご自身で進めていく必要があります。もっとも、弁護士を代理人とした場合は弁護士に任せることができます。
ブラックリストに登録される、官報公告される
個人再生を申し立てると金融機関の信用情報に事故情報として登録される、つまりブラックリストに登録されてしまいます。
したがって、個人再生の計画に基づく返済完了から5年程度はあらたなローンを組む、クレジットカードを作るなどということが難しくなるでしょう。
また、個人再生を申し立てると氏名等が官報に公告されます。つまり、誰しも知られないように個人再生を進めることは不可能ということです。
もっとも、官報を常日頃からチェックしている人は少ないでしょうから、意識しすぎる必要はないでしょう。
まとめ
個人再生は
- 借金の大幅な減額が可能
- 残った借金の分割返済が可能
- 住宅ローン特則を使うことができれば、自宅を処分せずに済む
という点が大きなメリットです。
他方で、要件・手続が複雑という点が大きなデメリットであることから、個人再生を諦め他の手段を選択せざるをえない場合もあります。